4月18日金曜日、16時。
東京ポートシティ竹芝の2階には、予想を超える長い列ができていた。
スマートフォンで出展作家を確認する人、目を輝かせながら友人と話す人。
それぞれが目当ての作品を胸に秘め、開場を待ち構えていた。
開場と同時に、列は静かに、しかし確かな勢いを持って流れ込んだ。
人気作家のブースにはすぐに人だかりができ、作品に赤い「SOLD」の札が次々と貼られていく。
tagboat Art Fair 2025は、こうして熱気と期待に包まれて始まったのである。
tagboat Art Fairは、作品を見るだけではなく「買うための場」であることをコンセプトにしている。
事前にすべての出品作品がウェブで公開され、価格も明示。来場者は事前に目星をつけ、予算を計算し、当日の動きをシミュレーションしてから臨む。
こうした透明性と事前準備ができる設計は、他のアートフェアにはない大きな特徴だ。
今年のリアル出展は62名。昨年の91名から約3割の減少となった。
展示面積も、2フロア・約3060㎡から、1フロア・約1530㎡へと縮小している。
背景には施工費の高騰という現実がある。しかし、単に規模を縮めたのではない。
「作品のクオリティだけは絶対に落とさない」という方針のもと、新しい作家を積極的に取り入れ、慎重に作家を絞り込み、内容を磨き上げた結果である。
出展点数は約1000点。前年より少ないものの、どのブースにも確かな質と、作家自身の存在感が漂っていた。
土曜日には、思わぬ試練が待っていた。
山手線と京浜東北線が終日運休。交通網が麻痺し、来場者数は大幅に減った。
それでも、足を運んだ人々は、ただ「見るため」ではなく、「本気で作品を探しに来た」層だった。
人数は減ったが、購買率は高かった。
結果として、会場販売・オンライン販売を合わせた売上点数と売上金額は増加した。
これは単なる偶然ではない。
来場者の質を高めたこと、作家たちの在廊対応、そしてtagboatが一貫して掲げた「購入を前提とするアートフェア」という軸が、確実に実を結んだ結果だった。
今回、特に印象的だったのは、作家と来場者の間に生まれた対話の光景だ。
多くの作家がブースに立ち、自ら作品について語り、来場者の質問に丁寧に応えた。
制作の裏話、コンセプト、モチーフへの思い――。
そうした話を聞いた来場者は、作品を「単なるモノ」ではなく、自分の人生に寄り添う存在として受け止め、購入を決断していった。
在廊時間が長かった作家ほど販売数が多かった、というデータもある。
やはりアートは、作品と作家、その両方が揃って初めて届くものなのだと、改めて感じさせられる結果だった。
さらに、SNSやメールを通じた告知活動にも、多くの作家が積極的に協力した。
その積み重ねが、初日の長蛇の列、そして高い購買意欲へと確実につながったのである。
tagboatは、他の大型アートフェアへの出展はほとんど行っていない。
理由はシンプルだ。「自分たち自身の場所で、作家と正面から向き合いたい」という思いがあるからである。
今回出展された1000点超の作品たちも、3日間で終わりではない。
今後もオンラインを通じてプロモーションを続け、一人でも多くの新しいオーナーに出会えるよう、地道な販売活動が続いていく。
「質を守りながら、機会を広げる」という新たなチャレンジは、困難に直面しながらも、質を高め、成果を残した。
この3日間は、単なるイベントではなかった。
アートを通じて、作家と来場者、運営と社会をつなぐ、確かな「場」の力を感じた時間だった。
「良い作品を、当たり前に、着実に届ける」。
その信念を胸に、また新たな挑戦が始まろうとしている。
Schedule
Public View
4/19 (sat) 11:00 – 19:00
4/20 (sun) 11:00 – 17:00